About

研究への経緯や課題等、建築社会研究が定める研究領域についてまとめたページです。

建築社会研究プラットフォームは、人々の日常生活の質に直接的に関わる建築の今日的役割や意義について、
私たちがまさに今生きている“社会”という観点から学術的に再考することを目的とし、
建築と社会の不可分な関係性に注目する学際的取り組みとしての「建築社会研究(Architecture-Society Studies)」の実質的な展開を目指す有志の集まりです。
*当委員会は、2023年3月末をもって活動を終了しました。

建築社会研究とは何か

「Architecture-Society Studies/建築社会研究」とは、建築(物)の形成行為が、社会的現実において社会的組織によって遂行されている故に、その行為とその結果としての建築(物)の、社会的特質と社会的影響を明らかにすることを目的とする。
「Architecture-Society Studies/建築社会研究」は、私たちが依拠して来た、環境心理学・環境行動論 (EBS)・人間環境学・あるいは建築計画学等が、人間生活の質の改善あるいは人間のwell-being の向上を基底的な中心的価値として前提し、それらの分野では環境が物理的側面にとどまらず社会・文化的側面を含む総体として了解され、さらに、人間―環境関係のトランザクショナルな不可分性が謳われているという背景と状況に鑑みて、人間存在の本質的な社会性に立って、建築物等が人々の社会的活動として形成されかつその環境において人々は様々な活動と社会的関係性を生み出していることに注目し、それらの本源的・総体的な解明を目指すものである(注1)。
当面は、「Architecture-Society Studies/建築社会研究」と称するが、私たちの関心からいえば、社会的/社会学的、社会心理的/社会心理学的なものはもとより、更にいずれは、政治学・法行政学・経済学等の諸分野との本質的な恊働の必要性は大きいと考えている。

注1:後述「建築社会学研究の課題例」

建築社会研究への経緯
1.人間・環境学会(Man-Environment Research Association, MERA)と「建築社会学を考える委員会」

当初私たちは、人間・環境学会(Man-Environment Research Association, MERA)(注2)に設置された研究委員会として、2005年度から「建築社会学を考える委員会」として研究活動を始めた。
人間・環境学会は、1982年に発足した「環境デザインと人間行動をめぐる学際的研究を行なう」学会で、建築学等を中心とする工学系と心理学等を中心とする文科系の研究者が主要メンバーであり、環境心理学あるいは環境行動論を主要な理論的背景としている。
しかし、「環境デザインと人間行動をめぐる」諸課題は、心理学や建築学に留まらず、より広範な研究分野との恊働を求めていることは明らかである。
その一つとして、人間の生活環境を形成している「建築」の「社会性」に注目し、「建築社会学」なる仮称の下に、「建築社会学を考える委員会」をスタートさせることが出来た。

注2:人間・環境学会のホームページ

2.「建築社会学」から「Architecture-Society Studies/建築社会研究」へ

その後、毎年度研究委員会の設置が認められて、各年度数回の委員会や公開研究会(注3)を開催して来た。
意見交換や討議の過程において、私たちの関心と視点は、環境社会学や都市社会学等と類似の「連辞符社会学としての建築社会学」(注4)として位置づけることは必ずしも適切ではないとの認識に至った。
私たちの関心と視点をより適切に表現し得るものとして、「Architecture-Society Studies/建築社会研究」と称することにした。

注3:「建築社会研究プラットフォーム」の「活動記録」

注4:「連辞符社会学としての建築社会学」
「連辞符社会学」の言葉はK・マンハイムによる。「連辞符」とは「ハイフン」のことで、単語と単語をつなげる記号である。研究対象としての「環境」や「都市」という言葉と、方法・理論を表す「社会学」という言葉をハイフンでつなげば、「環境-社会学」「都市-社会学」となる。つまり、連辞符社会学とは特定の対象を扱う社会学の総称である。現代社会学において、理論社会学や社会学史研究などのコアな領域以外の社会学研究の多くは、この連辞符社会学に分類できる。 そして、この意味での「建築社会学」もやはり存在する。日本では単独の学会ができるほどには大きな領域となっていないが、これまでに多様な観点から建築・建築物・建築家が社会学の研究対象とされてきた。それらの研究は、以下の二つに大別することができる。 一つは、広い意味での芸術社会学の一分野としての建築社会学である。ある建築物や建築家の存在を社会的文脈の中で捉え、その社会的影響について論じる。個別の建築物・建築家だけでなく、建築家グループ(派閥)や建築運動、さらには評論家の言説などもその対象となる。 もう一つは、人間の行為や集団の在り方などといった社会学固有の対象の理解のために建築に焦点を当てた研究である。そこでは人間の行動を枠づけるものとして建築を捉え、多様な建築物・建築様式が対象とされる。たとえば、教師-生徒関係を枠づけるものとして学校の建築が研究され、家族に纏わる規範を表すものとして住宅の様式が分析されてきた。芸術社会学としての建築社会学が、建築の中でも目立つもの、地から浮き立つ図を扱うのに対して、こちらは地の部分、当たり前の存在としてやり過ごされているような建築を扱う建築社会学だと区別することもできる。

3.関連分野間の交流と恊働の場

「Architecture-Society Studies/建築社会研究」が関心を持つ問題領域は極めて幅広く、多くの関連分野の方々の研究成果や情報/意見等を交換し、恊働してこの分野を発展させることが必要かつ有益であると考えられる。
ここに、人間・環境学会とは独立に、より幅広く、関心を有する方々の自由な情報/意見の交換と恊働の場を持つこととした。
多くの皆様の積極的な参加と活発な情報交換を期待している。

建築社会研究の課題例
1.対象とする課題自体の有する“社会性”

勿論、以下に限るものではないが、ご参考迄に、一つの着想として記してみることとしたい。
1-1.“社会的”弱者の生活環境の実態と整備
例:ホームレスピープル・ワーキングプア・障害者・高齢者・乳幼児等

1-2.生活環境の“社会的”な“品質”の実態と向上
例:欠陥建築物の遍在、超高層分譲共同住宅の乱立、都市計画の不在と市街地環境の貧困等

1-3.建築および都市の形成における基盤となる“社会的”制度の問題点と改善
例:建築および都市の形成にかかわる法体系の抜本的な改正と再編成
公共建築および都市計画における予算制度・執行体制の改善等

2.“社会的活動”としての建築(物)

2-1.建築(物)の計画・建設・利用・維持管理・まちづくり等、建築(物)形成行為の各段階における社会的活動の実態と相互関連の問題。
特に、建築(物)を“つくる”ことから、今既に在る建築(物)を“いかす”時代に、また、単品受注生産物から、商品ないし投機としての建築(物)へ移行している状況において。
例えば、
・「計画」段階:
政策・企画立案、計画・設計の各局面について、政治・法・経済ならびに市民社会等のあり方が関わってくる故に、それぞれの持っている社会的問題点やそれらの相互連関を構造的に明らかにすること。
また、現在および今後は、新規のみならず既存の建築(物)における、多様な人々の長期に亘る関わりによる、生活の質の向上に向けた新たな場の形成(社会的活動)が目指されるであろう。
・「利用」段階:
日本の建築計画学は大きな研究成果を挙げて各種の施策に結び付いて来たが、主として公共的施設・住宅の新規供給を前提として来た故に、今後は、それらの蓄積に立ちつつ、時代の社会的状況に相応しい展開が求められている。
・「維持管理運営」段階:
管理運営者の管理運営方針や組織・規則・モラール等によって、利用の難易に留まらず更には潜在的要求の開発発展等、広義の利用の実態とその質は大きく影響されてくる。
その一環としての「まちづくり」・「まち育て」は、人間環境系の一つのスケール段階としての「まち」に焦点を当てて、利害が異なる多くの人々が関係し合い乍ら、まちや人間環境を運営し手を加えつつ育てて行く仕組みに関わる。
・「建設」段階:
建設産業構造における元請―下請重層構造や資材流通市場の複雑性・通商政策等が、また、建設技術面における技術者・職人・労務者の質と量、帰属する企業・官庁等の組織構造等、“技術”を取り巻く社会的構造の諸問題がある。

2-2.上記各段階における手順的な側面としての意思形成・決定構造に関する問題
上記2-1で述べた、環境形成の各段階における各種の社会的活動に関わる意思決定メカニズム、即ち、誰(組織)が何を何故どのようにして決定しているか。ある建築(物)について、何故そのようなものがそこに形成されているのかという問い。
例えば、
・建築(物)に関する政策や法制度は、誰がどのような根拠でそのように立案・策定したのか。
あるいは、「公共建築物」なるものに関する用途・規模・立地・予算等は、どこの誰がどのような根拠で決定しているか。
いわゆる事業主・企画者・建築主・建築家・ユーザー・住民・市民・NPO/NGO・研究者等それぞれの立場と役割と相互関係等。
・建築(物)の物的形成方式や、設計者・建設者の選定方式等、それらの如何によって、形成される建築(物)の質、そこでの人々の生活の質にどのように関わるか等々。

3.建築(物)における“社会的現象”

3-1.建築(物)の社会的意義、周辺の社会にどのように影響しているか。
例えば、
・建築(物)の形成に依る、メリット・デメリット両面の社会的・文化的影響を明らかにすること。

3-2.公共建築物や大規模建築物が齎すメリット・デメリットといった社会的影響について、実現の事前と事後における比較評価の必要性。

3-3.建築(物)において人々はどのように関係し合っているか。
例えば、
・建築(物)の管理者・利用者・訪問者等がそこでどのように振る舞い、どのような相互関係を築いているか。
既往の環境行動論や日本の建築計画学においても、多くの研究が行われ成果も挙げられている。
特定の建築(物)のあり方と人々の社会的交流の様相や、いわゆる「コミュニティ」の形成・維持発展等に関わる、居住地の物的構造と「コミュニティ」との関係、成員間の付き合いや自治活動等が論じられてきた。
・更に今後は、特定の時間断面における個別の現象把握を越えて、人間関係の形成や組織の変化等そこでどのような社会的現象(関係性)が生じているかについて、より長期にわたる時間的変化や創発性の視点に立つとともに、社会的現象把握の水準を深め、現象の意味を読み解く必要があると考えられる。

← top